Exhibition
特別展示室 「その他、企画」第11回2026.6.16 TUE

「ミステリー文学資料館ニュース」 再録(1)

定期刊行していた「ニュース」でミステリーを俯瞰する情報を発信

 2019年まで、東京・池袋の隣町、要町に立つビルの1階に、日本で唯一のミステリー専門図書館「ミステリー文学資料館」があった。本サイトのWEB版資料館ではなく、リアルな資料館である。19994月に開館し(初代館長・中島河太郎氏)、20197月にビルの建替えに伴い閉館することとなるまでの20年間、ミステリー・ファンや研究家が多数訪れ、展示や資料を閲覧していた。

 当時ミステリー文学資料館では年2回のペースで「ミステリー文学資料館ニュース」という冊子を発行していた(全38号)。2つ折り4面の紙面に折々の企画展示の内容や、資料館を訪れたミステリー作家たちの紹介、作家や評論家のエッセイ・インタビューなどを掲載し、過去から現在までのミステリー小説を俯瞰する情報を発信するというものだった。
 200047日発行の創刊号では、当時の館長代行・窪田清氏が創刊の言葉として、資料館開館の理念を記している。

「わが国最初の探偵小説といわれる、黒岩涙香の『無惨』(一八八九年)から、一世紀を越える時間が流れました。
 この間に、ミステリー文学は著しい成長をとげ、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張に代表される優れたミステリー作家が輩出しました。
 (略)一方、これまでミステリーを本格的に所蔵する図書館はなく、戦前からの貴重な資料の散逸が心配されていました。
 当館はこうした状況を踏まえ、主に国内ミステリーに拘わる書籍、雑誌および主要作家の資料を蒐集、保存、公開するために開設されました。」

  • 創刊号には、窪田清館長代行の創刊の言葉が。また、要町の資料館の内部の写真も掲載されていた(左・閲覧室。中・展示コーナー)

 資料館には日本ミステリーの軌跡を辿ることのできる情報の蓄積があり、「資料館ニュース」でミステリー隆盛の歴史を追うことができたのである。
 この〈「ミステリー文学資料館ニュース」再録〉シリーズでは、20年間続いた冊子をランダムに掲載し、当時の面白い展示や貴重な写真資料、エッセイなどを紹介していく。

 その第1回として「第6号」(20021118日刊)を紹介する。この号のメインの記事は推理小説研究家・山前譲氏のインタビューで、1面から3面にわたって掲載されていた(聞き手は資料館の窪田清館長)。
 山前氏には本サイトの開設時より監修をお願いしていたが、本年1月に急逝され、その訃報にミステリー界は大きな悲しみに襲われた。氏の推理小説への多大な貢献に敬意を表し、この号からシリーズを始める次第である。

 インタビューのタイトルは「わかってきた乱歩、作家デビューまで」。山前氏はこの年、ミステリー評論家の新保博久氏と共編著で『幻影の蔵江戸川乱歩探偵小説蔵書目録』を刊行したが、資料データのカード化など出版までの地道な準備や調査の様子、資料の新発見などについて語っている。
 ミステリー・ファンには伝説とも言える「乱歩の蔵」に入ったときは「最初からあんまり興奮はしなかったですね。(略)やっぱり書庫ですから、整然と本が並んでいるわけです。本は見慣れてますから(笑)」と語り、また横溝正史宛ての書簡の発見についても「新発見といえばそうなんですが、なんかあまりにいろいろあるので、こちらは鈍感になっていました。新発見かなーって」と、山前氏らしい率直な感想を述べている。
 飾らない人柄を思い出すとともに、氏の長年の研究活動の成果に、改めて感謝の念を強くする号である。

  • 第6号、山前譲氏インタビュー記事の1ページ目。写真は『幻影の蔵)』(左が化粧箱、右が中の書籍本体)。

  • インタビュー記事の2ページ目。窪田館長と並ぶ山前譲氏の写真が掲載されている。

  • インタビュー記事の3ページ目。最後に「江戸川乱歩年譜」が付されている。

  • この号の最終4ページには、20021111日から始まった資料館での展示「江戸川乱歩再見」の解説と案内を掲載。乱歩のデビュー以前の創作活動にスポットを当てたこの展示では、少年時代に自ら創刊した雑誌に掲載した「怒濤」、「二銭銅貨」の荒筋と草稿、幻想小説「夢の神秘」や冒険小説「黄色団」の原稿など、貴重な資料が展示された。

    (注・現在はこのミステリー文学資料館はありません)