オリジナルと復刻版(1)「探偵新聞」
犯罪・風俗記事がメインながら、江戸川乱歩や中島河太郎も執筆
「探偵小説新聞」ではなく「探偵新聞」となっているのが、この新聞の性格を端的に示していると言えるだろう。当時、地域によっては「探偵」が、プロの捜査官である「刑事」、あるいは「警察」と同義語だった。すなわちこの新聞の記事はフィクションではなく実際の犯罪に関わるものがメインなのである。
右の復刻版は2021年5月、金沢文圃閣より刊行。全一巻・別冊。(右の小さい判型の本が、改題・総目次・推薦文を収めた別冊)
創刊は1947(昭和22)年7月で、戦後間もなくの探偵小説ブームの中、「宝石」以下、次々と探偵雑誌が創刊された時期だったから、のちに誤解を招いたかもしれない。そしてかなりレアな新聞で、なかなか内容を確認できなかったのである。
犯罪報道や犯罪抑止の啓蒙記事、あるいは世相・風俗にまつわる記事がトップを飾ることが多かった。そもそも創刊メンバーは新聞の警察担当記者たちだったというから、当然のことと言える。そして当時の混乱した世相を反映し、時として煽情的な見出しで読者の購買意欲をそそってもいた。
とはいえ、発足したばかりの探偵作家クラブの、そして探偵作家の動向も紙面では伝えられている。探偵小説が連載されたこともあった。ただタブロイド判4ページという限られた紙面では、読み応えのあるものではかったけれど。また、1回だけではあるが探偵小説の懸賞募集を行い、1948(昭和23)年に楠田匡介の「雪」が一等入選作として掲載されている。
「探偵新聞」の最大の功績は、なんといっても評論家・中島河太郎を世に送り出したことだ。まず第11号から第29号まで「日本探偵小説略史」を連載し、これが江戸川乱歩の目に留まり、その書誌学的アプローチをベースにしての評論が、高く評価されるのだった。さらに第31号から第37号まで「戦後探偵小説史」を連載している。このことだけでも探偵小説史に特筆される新聞と言えるだろう。
記事「犯罪 どうすればなくなるか 紙上録音」。犯罪抑止の啓蒙記事も載せていた。
記事「貸家貸間あり」。新聞記者が関わっていただけに、社会面的な記事も多い。
記事「阿部お定さんの爆弾訴訟」。有名な事件だけに、やはり取り上げている。
記事「アルプス夏山奇談」。ときには幽霊譚などオカルト的な記事も扱った。


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