南洋一郎特集
少年少女を虜にして大人気となった秘境冒険小説
少年少女向けの小説は昔からひとつのジャンルとしてたくさんの作品が書かれてきた。なかでもミステリーや冒険小説は読書欲をそそってきたと言えるだろう。江戸川乱歩の少年探偵団シリーズやコナン・ドイルのシャーロック・ホームズもの、あるいはモーリス・ルブランの怪盗ルパンものは、多くの作家の創作の原点となっている。
1893年、現在の東京都あきる野市に生まれた南洋一郎は、戦前戦後を通してとりわけ多くの読者を虜にした作家である。秘境冒険ものの第一作である『吼える密林』は1933年刊だが、当館所蔵の1936年の刊本は88版となっているから、その人気ぶりには圧倒される。終戦後の1947年からの数年間、1年に10冊以上の南洋一郎の新刊があった。戦争で傷ついた子供たちの心をケアすることになったのは疑いない。
そのなかには光文社から刊行されたものもある。1949年11月から1950年12月まで全10巻が刊行された南洋一郎選集だ。痛快文庫という年少者向けの叢書のなかのシリーズだった。用紙事情の悪い戦後まもなくの出版物だけに、現在では装釘がだいぶくすんで見えるが、当時は幼心を大いにそそったに違いない。
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光文社からは痛快文庫という叢書で刊行された。
それを引き継いだかのように南洋一郎の冒険小説をまとめたのがポプラ社で、南洋一郎全集を1953年から刊行している。その書誌をきちんとまとめるのは大変なことなのだが、当館では1953年から1956年にかけて刊行されたものを所蔵している。1950年代も半ばとなるとかなり派手な装釘となっていて、幼い頃を思い出す人も多いだろう。ポプラ社からは南洋一郎が翻訳した怪盗ルパン全集も出されているが、それは全30巻にもなり、世代を超えて愛読された。
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ポプラ社から刊行された南洋一郎全集。色彩豊かな装画が記憶に残る。
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ポプラ社の全集の本文には、少年少女の想像を掻き立てる魅力的な挿絵が多数入っている。左は『魔海の秘宝』、右は『幽霊塔』の挿絵。