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特別展示室「全集」第1回2024.4.23 TUE

「新作探偵小説全集」新潮社

豪華執筆陣による書下ろし長編を揃える

全10巻、書下ろしによる長編を揃えたこの全集は、日本のミステリー史において特筆される企画だろう。戦後になるといくつもの書下ろし長編の全集が試みられたが、完結するのはなかなか大変だった。それが1932(昭和7)年4月から翌1933年4月にかけて刊行されたこの全集は、きっちり完結しているからだ。前例のないものだったこの全集のラインナップはじつに豪華である。

第1巻 江戸川乱歩『蠢く触手』
第2巻 大下宇陀児『奇蹟の扉』
第3巻 甲賀三郎『姿なき怪盗』
第4巻 佐左木俊郎『狼群』
第5巻 橋本五郎『疑問の三』
第6巻 浜尾四郎『鉄鎖殺人事件』
第7巻 水谷準『獣人の獄』
第8巻 森下雨村『白骨の処女』
第9巻 夢野久作『暗黒公使』
第10巻 横溝正史『呪ひの塔』

装釘もなかなか凝っている。

  • 江戸川乱歩『蠢く触手』

  • 美しい化粧箱に収められた書籍の表紙は
    黒と銀のツートーンカラー。

  • 書籍の見返しには全巻共通で手形が印刷されている。

この全集の発案者は甲賀三郎で、新潮社に勤めていた佐左木俊郎が実務に当たったようだ。執筆に費やす時間はあまりなかったらしいが、『姿なき怪盗』や『奇蹟の扉』、あるいは『鉄鎖殺人事件』といった各作家の代表作が揃った。ただ『蠢く触手』は岡戸武平の代作である。また、佐左木俊郎は完結直前に急逝し、『狼群』は同僚である奧村五十嵐の手によって完成された。

いわゆる月報として「探偵クラブ」という小冊子が挟み込まれていた。全集執筆陣による連作「殺人迷路」や各作家のプライベートを紹介するエッセイなど、その内容はミステリー史的に貴重である。

  • 中に挟み込まれていた小冊子「探偵クラブ」。