Exhibition
特別展示室 「全集」第2回2024.7.17 WED

「江戸川乱歩全集」平凡社

乱歩自ら獅子奮迅の働きで編集・宣伝に参加

 江戸川乱歩の最初の全集は、19315月から翌年5月にかけて平凡社より刊行された。最初は全12巻とされていたが、最終的には1巻増巻されて全13巻となった。小冊子の「探偵趣味」が付録で、江戸川乱歩「地獄風景」の連載の他、掌編募集やポーとドイルの写真集など多彩な内容である。最終号は「犯罪図鑑」と題した写真集だったが、これは発行当日に発売禁止となったという。


付録の「探偵趣味」では、第1号より長編「地獄風景」を連載。

 企画を持ち込まれたときにはあまり乗り気ではなかった江戸川乱歩だったが、いざスタートとなると、各巻の目次立てや装釘の吟味、宣伝方法にとまさに獅子奮迅の働きをしている。それはかねてより編集や出版に興味を持っていたからだった。

 各巻500頁というプランだったが、それまでに発表した小説をすべてかき集めても足りない。そこで随筆や諸家の批評も収録したのだが、さすがに岡戸武平の手による『蠢く触手』や横溝正史と連名で新聞に連載した『覆面の佳人』(別題『女妖』)など、代作のものは収めていない。ただ、江戸川乱歩名義で渡辺温が翻訳したエドガー・アラン・ポーの短編は第13巻に収録している(当時はこのことは公にはなっていなかった)。その訳業を高く評価してのものだろう。


記念すべき第1巻には人気の作品が並ぶ。

 そして一番乗り気だったのは宣伝だった。金色のマントをまとったチンドン屋、ビルの屋上のアドバルーン、セルロイドの黄金仮面の発売(ビルの屋上からバラ撒いたという)、小売店の店舗のノボリ、岩田専太郎が描いた黄金仮面を印刷したボール紙をつないだポスターなどなど、かなり派手な宣伝を仕掛けたのだが、そこには江戸川乱歩のアイデアも盛り込まれていた。新聞広告の下絵ではその絵心も発揮している。セルロイドの黄金仮面というのはぜひとも当館の資料として入手したいところだが、残念ながらこれまで江戸川乱歩邸でしか見たことがない。