探偵クラブ

探偵クラブ

ユニークな探偵小説全集の付録雑誌

文学全集に月報が挟み込まれることがよくある。片々たるものでも興味深い随筆が載っていて貴重だ。探偵小説関係にも多数あるが、「探偵クラブ」は月報というイメージとはかけ離れていてじつにユニークである。独立した雑誌のようなスタイルであり、小説や随筆など、内容も充実していたからだ。
「探偵クラブ」は、1932(昭和7)年から翌年にかけて新潮社から刊行された、「新作探偵小説全集」全十巻の付録として発行された。これは探偵小説界では初めての書き下ろし探偵小説全集である。甲賀三郎の企画で、作家で新潮社の編集者であった佐左木俊郎が後押ししたという。
執筆陣のひとりでもあったその俊郎が急逝するというアクシデントに見舞われたものの、無事に完結している。当時の主だった探偵作家によるラインナップは、刊行順に並べると以下の通りだが、このうち、江戸川乱歩の『蠢く触手』は岡戸武平の代作であった。また、『狼群』は完成させることなく佐左木俊郎が亡くなったため、やはり新潮社の編集者の奥村五十嵐(のちの納言恭平)が書き継いだ。

  第三巻 甲賀三郎『姿なき怪盗』(1932年4月刊)
  第八巻 森下雨村『白骨の処女』(1932年5月刊)
  第二巻 大下宇陀児『奇蹟の扉』(1932年6月刊)
  第十巻 横溝正史『呪いの塔』(1932年8月刊)
  第七巻 水谷準『獣人の獄』(1932年10月刊)
  第一巻 江戸川乱歩『蠢く触手』(1932年11月刊)
  第五巻 橋本五郎『疑問の三』(1932年12月刊)
  第九巻 夢野久作『 暗黒公使 (ダーク・ミニスター)』(1933年1月刊)
  第六巻 浜尾四郎『鉄鎖殺人事件』(1933年3月刊)
  第四巻 佐左木俊郎『狼群』(1933年4月刊)

基本的には挟み込まれている巻の作者を紹介する記事がメインだが、執筆陣による連作探偵小説「殺人迷路」の連載、次回配本作家の横顔や作品論、そして短編など多彩な内容である。編集は新潮社の編集者が担当していたようだ。最終号は佐左木俊郎の追悼原稿で埋められた。
編輯後記には、のちのち雑誌として独立することを匂わせていたが、「日の出」の創刊による多忙を理由にそれは叶わず、全10冊の付録雑誌として終わった。作者の家族による随筆や水谷準の探偵小説史など、資料的にも貴重な雑誌である。